「生成AIを自治体業務で活用したいけれど、具体的に何に使えばいいのかわからない」
このように感じている自治体職員の方も多いのではないでしょうか。
生成AIは、文章の作成や要約、アイデア出しなど、さまざまな業務をサポートできます。
特に自治体業務では、議会答弁のたたき台作成、広報文案の作成、あいさつ文の作成、専門用語の解説、施策のリスク検討など、文章を扱う業務との相性が良いのが特徴です。
本記事では、自治体向け生成AI活用研修の内容をもとに、自治体業務で活用できる生成AIの実践例を6つ紹介します。「まずは身近な業務から生成AIを使ってみたい」という方は、ぜひ参考にしてください。
そもそも生成AIとは?
生成AIとは、入力された指示に応じて、文章やアイデアなどを生成するAIです。
言い換えると、「膨大な情報を学び、新しいアイデアや文章を即興で創り出す」ものであり、人間のように「記憶」して答えているのではなく、統計的な予測によって次に来る自然な言葉を選びます。
そのため、生成AIを自治体業務で利用するときには、次の3つが重要です。
- AIに何を依頼するのか
- どのような条件を与えるのか
- AIの回答をどのように確認するのか
生成AIは、自治体職員に代わって最終的な判断をするものではありません。あくまで「賢いアシスタント」として活用し、最終的な判断は職員が行うことが基本です。
自治体業務で生成AIを活用するメリット
自治体の仕事には、文章作成や資料確認など、時間のかかる業務が数多くあります。
生成AIを活用することで、こうした業務の「最初の作業」を効率化できます。
例えば、自治体における生成AIの活用場面として、次の4つが挙げられます。
住民向けサービスの「翻訳家」
専門的で難しい行政の言葉を、住民にわかりやすい表現へ変換できます。
時間を創り出す「下書き職人」
議会答弁のたたき台や広報文など、各種文書の最初のたたき台を作成できます。
膨大な資料を読む「要約係」
長い報告書や国からの通知文などを要約し、短時間で内容を把握するために活用できます。
発想を支援する「ブレスト相手」
統計データやアンケート結果などから、傾向や仮説を考える際の視点を得ることもできます。
では、実際の自治体業務ではどのように使えるのでしょうか。
自治体業務に活かす生成AIの実践例6選
1.議会答弁のたたき台を作成する
自治体職員にとって、議会答弁の作成は時間と労力がかかる業務の一つです。
生成AIを使えば、質問内容や自治体の具体的な取り組みなどを条件として与え、答弁案のたたき台を作成できます。
(例)
商工観光課の職員が「最寄り駅からじないまちエリアの活性化について、現在行っている取り組みや検討状況」を答弁するケースの場合
例えば、次のような条件を指定します。
- 背景:議会の一般質問で質問を受けた
- 役割:商工観光課長
- 読者:議員
- 目的:答弁案を作成する
- 制約:自治体の具体的な取り組みに触れる、推測は記載しない
- 形式:行政における答弁案形式
- 口調:行政の答弁らしい表現
- 長さ:300文字
このように、背景や役割、読者、目的、制約などを明確にすることで、目的に近い回答を得やすくなります。
ただし、生成AIが作った答弁案をそのまま使用するのではなく、事実関係や自治体の方針などを職員が確認することが重要です。
2.広報文案を作成する
広報誌の記事作成にも生成AIを活用できます。
例えば、「広報誌に狂犬病予防注射の案内を掲載したいが、300文字という限られた文字数で、接種率の向上につながる文章を作りたい」というケースです。
この場合、生成AIに単純に「広報文を書いて」と指示するのではなく、次の項目を具体的に伝えます。
- 担当業務
- 読者
- 現状の課題
- 文字数
- 目的
さらに、「ナレッジを活用して」と指示することも可能です。生成AIに複数の案を出してもらい、その中から職員が内容を確認し、自治体の広報として適切な表現に仕上げるという使い方ができます。
3.市長などのあいさつ文を作成する
イベントや式典などで使用する市長や町長などのあいさつ文も、生成AIを活用できる業務です。
「去年と同じ文章になってしまう」「イベントの内容に合わせて文章を考えるのが大変」といった場合に、過去のあいさつ文を参考資料として生成AIに与え、新しい案を作成してもらうことができます。
<例>自治体の農業祭に参加する市長のあいさつ文の指定すること
- 昨年のあいさつ文
- 2026年ならではの時事
- 読者
- 文章の形式
- 文字数
ポイントは、「去年の文章を少し変えて」とだけ依頼するのではなく、どのような文章にしたいのかを具体的に伝えることです。例えば、「昨年の文章の形式を維持しながら、今年ならではの内容を加える」といった条件を指定できます。
4.専門用語をわかりやすく説明する
自治体業務では、情報システムや制度など、専門的な用語を扱う場面も少なくありません。
「IPアドレスとは何か?」といった専門用語について、生成AIにわかりやすく説明してもらうこともできます。
<例>「IPアドレスって何ですか?野球に例えて中学生でもわかるように教えてください」というプロンプトであれば、生成AIに「中学生でもわかるように」「野球に例えて」など、具体的な条件を加えることで、難しい内容を身近な例に置き換えて説明してもらえます。
これは、制度やIT用語を理解するときだけでなく、住民向けの説明を考えるときにも活用できます。
5.施策や広報文の「失敗」を先回りして考える
生成AIは、文章を作るだけではありません。
「この施策を実施したら、どのような問題が起こるだろう?」というように、リスクを考えるための壁打ち相手としても活用できます。
たとえば、市長のあいさつ文を生成AIに作成してもらった後、「このあいさつを実際に行った状態を想定して、市民からクレームが来たとしたら、どのような内容になるか」を生成AIに考えさせることが可能です。
さらに、「計画策定後の1年後の未来になったと仮定してください。計画は失敗しました。なぜでしょうか」「新しい施策に取り組んでから1年経った未来と仮定してください。施策は失敗しました。なぜでしょうか」といった問いを使うことで、施策の失敗要因を事前に検討することができます。
このように、生成AIを「答えを出してもらうツール」ではなく、「自分では見落としている視点を探すための相手」として使うこともできます。
6.「何をすればいいかわからない」ときに手順を聞く
生成AIを使い始めたばかりの職員にとって、意外と大きな壁になるのが、「そもそも、何を質問すればいいのかわからない」という問題です。
この場合、無理にきれいなプロンプトを作る必要はありません。まずは、自分が置かれている状況をそのまま生成AIに伝え、「この状況で、自分は何をすればいいですか?」と聞いてみる方法があります。
研修資料でも、現在の状況や困っていることをそのままチャットに入力し、生成AIに指示を仰ぐことで、自分が取るべき手順を整理する方法が紹介されています。
生成AIを使うための「プロンプトを考えること」自体をAIに手伝ってもらうわけです。
これは、生成AI初心者にとって取り組みやすい方法です。
生成AIを上手に使うポイントは「指示」と「判断」
ここまで紹介した6つの活用例を実践するうえで、重要なのが「指示」と「判断」です。
生成AIを上手に活用するためには、指示と判断を的確に行うことが重要だとされています。
具体的な指示を出す
生成AIへの指示を「プロンプト」と呼びます。
プロンプトエンジニアリングとは、望ましい結果を得るために、生成AIへの指示文を設計・最適化する技術やスキルです。
特に重要なのが、次の3つです。
- 明確な指示
- 背景情報
- 出力形式の指定
さらに弊社の研修では、次のような「万能プロンプトテンプレート」を紹介しています。
万能プロンプトテンプレート
背景:状況や経緯
役割:AIに演じてほしい立場
読者:誰に向けて書くか
目的:何を達成したいか
制約:やってはいけないこと、推測禁止など
形式:見出し、本文、表など
工程:AIに考えてもらう手順
口調:やさしく、公文調、広報調など
長さ:文字数や段落数
このように条件を整理して伝えることで、生成AIに「何をしてほしいのか」を伝えやすくなります。
自治体で生成AIを使うときの注意点
便利な生成AIですが、自治体業務で利用する場合には注意が必要です。
特に次の点に注意しましょう。
生成AIの回答をそのまま信用しない
生成AIは完璧ではなく、間違った情報を生成する場合があります。
そのため、AIの回答については必ず確認することが重要です。
特に、判例や条文、要綱、統計数値などを根拠として使用する場合には、一次情報との照合を省略しないことが重要です。研修資料では、生成AIが実在しない判例を引用した事例を取り上げ、この点を説明しています。
個人情報や機密性の高い情報を入力しない
自治体業務では個人情報や機密性の高い情報を扱うことがあります。
業務で生成AIを利用する際には、個人情報や機密性の高い情報を入力しないよう注意しています。
自治体で生成AIを活用する際には、利用するサービスのルールや庁内の情報セキュリティに関するルールを確認したうえで利用しましょう。
自治体専用の生成AIサービスを活用する方法もある
自治体向けの生成AIサービスも登場しています。
また、ファイル読み込み機能についても紹介されており、Word・PDF・Excelなどのファイルを生成AIに読み込ませ、その内容を前提として対話や生成を行うことができます。
例えば、庁内資料をもとに、
「この資料を5つのポイントにまとめて」
「この資料の課題を整理して」
「この内容を住民向けにわかりやすく説明して」
といった使い方につなげることが考えられます。
まずは身近な業務から生成AIを使ってみよう
自治体業務における生成AIの活用は、特別な業務から始める必要はありません。
今回紹介したように、次のような日常的な業務から始めることができます。
- 議会答弁のたたき台を作成する
- 広報文案を作成する
- 市長などのあいさつ文を作成する
- 専門用語をわかりやすく説明する
- 施策や広報文の失敗を先回りして考える
- 業務の手順を整理する
大切なのは、生成AIにすべてを任せることではありません。
生成AIに「下書き」「要約」「アイデア出し」「壁打ち」などを任せ、職員が内容を確認し、必要な修正や判断を行う。
このような役割分担が、自治体業務で生成AIを活用するうえで重要になります。
まずは、今日の仕事の中から「文章を考えるのに時間がかかっている業務」を一つ探してみてはいかがでしょうか。その業務を生成AIに相談するところから、自治体業務の生成AI活用を始めてみましょう。


