さっそくですが、自治体では、住民からの「手続き方法を知りたい」「必要な書類を教えてほしい」「この制度は自分が対象になるのか」といった問い合わせは、電話や窓口だけでなく、自治体ホームページからも発生します。
こうした問い合わせに24時間対応できる手段として注目されているのが、自治体ホームページを情報源として回答するAIチャットボットです。
一方で、AIチャットボットには、さまざまな製品があります。
- 生成AIが回答を作るタイプ
- ホームページの情報を検索して案内するタイプ
- FAQを登録して回答するタイプ
- LINEと連携できるタイプ
- PDFやExcelなどの庁内資料を登録できるタイプ
本記事では、自治体向けのAIチャットボットについて、実際の自治体導入例と製品の違いを比較します。
※本記事の製品比較は、提供資料に掲載された調査結果をもとに、2026年9月時点の公式情報を確認して整理しています。製品仕様や料金は変更される可能性があるため、導入時には各ベンダーへの確認が必要です。
自治体でAIチャットボットが注目されている理由
自治体の問い合わせを電話や窓口だけで対応すると、職員の負担が大きくなります。
そこで、自治体ホームページ上にAIチャットボットを設置し、住民が自然な文章で質問できるようにします。
例えば、
「子どもが生まれたのですが、どんな手続きが必要ですか?」
と質問すると、関連する行政情報を検索して回答を提示する仕組みです。
AIチャットボットは24時間365日の問い合わせ窓口として活用できるため、職員の問い合わせ対応を減らすだけでなく、住民が必要な情報を自分で探しやすくする効果も期待できます。
自治体のAIチャットボットは何に使える?
自治体のAIチャットボットは、住民からの問い合わせ対応だけでなく、庁内ヘルプデスクや事務支援、マニュアル作成などにも活用できます。
自治体におけるAIチャットボットの主な活用シーン

AIチャットボットで使われる「RAG」とは?
自治体向けAIチャットボットを比較するとき、「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」という言葉を目にすることがあります。
RAGとは、AIが質問に対する回答を生成する際に、あらかじめ指定した文書やWebサイトなどから関連情報を検索し、その情報をもとに回答を生成する仕組みです。
自治体の場合は、条例・規則、業務マニュアル、各種申請書、自治体公式サイト、お知らせ、FAQなどを検索対象にできます。
RAGでは「自治体が指定した情報」を検索して回答する
RAGを活用したAIチャットボットの基本的な仕組み

汎用的な生成AIとRAGを用いたAIの違い
ChatGPTなどの汎用的な生成AIと、自治体が指定した情報を検索して回答するRAG型AIでは、情報の扱い方が異なります。

自治体のAIチャットボット導入例
実際に自治体では、AIチャットボットをどのように活用しているのでしょうか。
静岡市|公式サイトとLINEでAIによる問い合わせ対応
静岡市では、AIを活用した市民向けサービスが導入されています。
カラクリの「GeN – Gov Edition」を活用し、市の公式サイトやLINEから住民が質問できる仕組みです。
特徴的なのは、単純に質問に対してAIが一発回答するのではなく、質問が曖昧な場合にAIが聞き返す点です。
例えば「納期限はいつですか?」という質問だけでは、住民税なのか固定資産税なのか、水道料金なのか分かりません。そこで質問を絞り込み、適切な情報へ案内する設計になっています。静岡市の事例では、複数社によるプロポーザルを経て、正確性や職員負担の軽減などが選定のポイントになったとされています。
四日市市|月12万件規模の問い合わせ対応
四日市市でもGeNが導入されています。
公式情報によると、四日市市では月12万件規模の問い合わせが発生しており、問い合わせ対応にかかる職員負担が課題となっていました。特に課題となったのが、部署ごとにFAQの整備状況や粒度が異なり、更新作業にも負担がかかることです。そこで、個別にFAQを作り込むのではなく、既存のホームページを情報源として利用する方式が採用されています。これは自治体にAIチャットボットを導入する際に重要な考え方です。「AIを導入するために新しいFAQを大量に作る」のではなく、「既に公開している公式情報をAIに活用させる」という発想です。
岐阜県|ホームページとLINEでAIナビゲーター
岐阜県では、「AIナビゲーター」としてスマート公共ラボ AIコンシェルジュが導入されています。公式サイトとLINEから利用でき、住民が文章で質問すると必要な情報を案内する仕組みです。プレイネクストラボによると、AIコンシェルジュはURL指定によるWebページの学習、ドメイン指定によるリアルタイム検索、PDF・Excel・Wordなどのファイル取り込みに対応しています。また、岐阜県の事例では、Azure AI SearchやGoogle Custom Searchで情報を取得し、Azure OpenAI Serviceで回答を生成する構成が公開されています。
筑紫野市・瀬戸市・軽井沢町などでも導入
スマート公共ラボ AIコンシェルジュでは、岐阜県のほか筑紫野市・瀬戸市・軽井沢町・上郡町・養父市・岩美町の導入事例が紹介されています。
公式サイトでは、初期費用60万円~、月額5万円という料金も掲載されています。ただし、質問数に応じた追加料金が設定されているため、実際の費用は利用規模によって変わります。
自治体向けAIチャットボット5製品を比較
| 製品 | 情報の取得方法 | 主な回答方式 | サイト | LINE | 自治体事例 |
|---|---|---|---|---|---|
| GeN – Gov Edition | 公式ホームページ参照 | 公式情報を提示・聞き返し | ○ | ○ | 四日市市・静岡市など |
| MOBI BOT GenAI | WebSearch・RAGなど | 生成AI | ○ | ― (別製品で可) | 自治体事例は資料上なし |
| スマート公共ラボ AIコンシェルジュ | URL・Web検索・ファイル | ChatGPT+RAG | ○ | ○ | 岐阜県・筑紫野市・瀬戸市など |
| AI相談 TazuNavi | 自治体HP・FAQ | 生成AI | ○ | 要確認 | 公開事例は資料上なし |
| AIさくらさん | 登録データ・FAQ | 独自制御+AI | ○ | ○ | 佐賀県・三重県菰野町など |
※「○」は公式情報から確認できた範囲です。実際の導入時にはベンダーへの確認をおすすめします。
GeN – Gov Edition|公式情報を「正」として使いたい自治体向け
カラクリの「GeN – Gov Edition」は、自治体ホームページを情報源として活用するAIサービスです。
大きな特徴は、AIが自由に回答を生成するのではなく、指定された公式情報を参照・提示する設計です。
また、曖昧な質問に対して「聞き返し」を行い、住民の意図を絞り込む仕組みを採用しています。
主な特徴
- FAQ作成・AI学習の負担を抑えられる
- 公式ホームページを情報源として利用
- 曖昧な質問に聞き返す
- 静岡市・四日市市などの自治体事例
- LINEにも対応
「AIがもっともらしい回答を作ってしまうことが心配」という自治体では、回答の根拠を公式情報に限定する設計が重要な検討ポイントになります。
MOBI BOT GenAI|複数のAI機能を組み合わせたい場合
モビルスの「MOBI BOT GenAI」は、シナリオ、Vector Search、RAG、生成AIアクション、WebSearchなどを組み合わせられるAIチャットエージェントです。
特に注目したいのが「WebSearch」です。対象WebサイトのURLを指定し、Web上の情報を活用して回答する仕組みです。
また、RAGによる回答生成だけではなく、次のように用途によって機能を使い分けられます。
- 定型的な案内はシナリオ
- FAQ検索はVector Search
- 複数情報をまとめる場合はRAG
- Web情報はWebSearch
- 手続きの自動化には生成AIアクション
ただし、資料作成時点ではMOBI BOT GenAIのWebSearch機能について自治体導入事例は確認されていません。そのため、自治体での実績を重視する場合は、導入実績や検証環境についてベンダーに確認するとよいでしょう。
スマート公共ラボ AIコンシェルジュ|Web・LINE・ファイルを幅広く活用
プレイネクストラボの「スマート公共ラボ AIコンシェルジュ」は、自治体ホームページだけでなく、各種ファイルも情報源として利用できる点が特徴です。公式情報では、PDF、Excel、Word、PowerPoint、TXT、CSVなどのデータに対応しています。
さらに、ホームページ・LINE・PDF・Excel・Word・PowerPoint・CSVなどを組み合わせられます。また、20カ国語以上の多言語対応も公式に案内されています。
例えば、次の用途であれば、「「ホームページだけでなく、PDFなどの行政資料もAIに参照させたい」「LINEからも住民に利用してもらいたい」が選定ポイントになります。
AI相談 TazuNavi|自治体ホームページを中心に回答
アイネスの「AI相談 TazuNavi」は、自治体ホームページやFAQデータをもとに回答する自治体向け生成AIチャットボットです。公式情報では、シナリオを用意するのではなく、AIが文章を生成して回答する方式とされています。また、回答と一緒に情報の掲載元URLを表示する設計です。
自治体ホームページを情報源として活用する場合、「AIの回答だけを見る」のではなく、「元になった公式ページを確認できる」ことは、行政情報を扱ううえで重要なポイントです。
AIさくらさん|自治体・官公庁での導入実績を重視
ティファナ・ドットコムの「AIさくらさん」は、自治体や官公庁などへの導入実績を公開しています。自治体向けサービスでは、佐賀県、会津若松市、四日市市、富山県、奈良市などが導入実績として紹介されています。また、最高裁判所の民事裁判書類電子提出システムに関する問い合わせ対応など、官公庁でのWebサイト型の活用事例も掲載されています。自治体向けサービスでは、住民対応だけでなく、庁内問い合わせへの活用も打ち出されています。
自治体のAIチャットボットを比較するときの5つのポイント
単純に「生成AIを使っているか」だけで製品を比較するのはおすすめできません。自治体の場合は、次のポイントを確認しましょう。
1.情報源は何か
まず確認したいのが、AIが何を根拠に回答するのかです。例えば、自治体ホームページ・FAQ・PDF・Excel・Word・独自データベース・Web検索などがあります。
特に重要なのは、自治体ホームページを更新したとき、その変更がAIの回答にいつ反映されるのかです。
2.AIが回答を「生成」するのか
生成AI型のチャットボットでは、質問に対してAIが文章を作成します。便利である一方、行政情報では誤った内容を回答するリスクを考える必要があります。そのため、「AIが自由に文章を生成するのか」「登録・指定した公式情報だけを提示するのか」を確認しましょう。
さらに、RAGを利用している場合も、
- どのデータを検索するのか
- 検索結果からどのように回答するのか
- 出典URLを表示できるのか
- 回答できない場合はどうするのか
まで確認すると安心です。
3.ホームページの更新が自動反映されるか
自治体では、ホームページの情報が頻繁に更新されます。
例えば、
「給付金の申請期限が変更された」
「災害情報が掲載された」
といった場合です。
AIチャットボット側で別途FAQを更新しなければならない製品の場合、運用負担が増えます。
そのため、「自治体ホームページを更新すればAIにも自動的に反映されるのか」は必ず確認したい項目です。
4.LINEと連携できるか
住民が自治体ホームページを訪問するだけでなく、LINEから問い合わせできるようにする方法もあります。
特に、自治体ホームページ+LINEという組み合わせを検討する場合は、LINE連携の可否だけでなく、「追加費用・LINE側の設定・会話履歴・個人情報の取り扱い・利用できる機能の違い」などを確認しましょう。
5.個人情報を入力させない仕組みがあるか
自治体のAIチャットボットでは、住民が誤って氏名や住所、電話番号などを入力する可能性があります。
そのため、次のような点を確認しましょう。
- 個人情報のマスキング
- 入力内容の制御
- ログの管理
- IPアドレス制限
- 管理画面へのアクセス制御
- データの保存期間
- AI学習への利用有無
自治体のAIチャットボット導入では「回答精度」だけを見ない
AIチャットボットを比較するとき、「回答精度が高い製品」を探したくなります。
しかし、自治体の場合はそれだけでは不十分です。
重要なのは、「導入した後、職員が無理なく正確な情報を維持できるか」という視点です。
例えば、回答精度を高めるために大量のFAQを作成する必要がある場合、導入後の更新作業が職員の負担になる可能性があります。反対に、自治体ホームページを情報源としてAIが利用できれば、既存の情報管理を活用できます。
つまり、AIチャットボットの導入=AIを導入することではなく、自治体の情報を、住民が探しやすい形に変えることと考えていきましょう。
チェックリスト
最後に、ベンダーへ問い合わせる際の確認事項をまとめます。
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 情報源 | HP、FAQ、PDF、Excelなど何を参照できるか |
| HP連携 | URL指定だけで利用できるか |
| 更新 | HP更新が自動反映されるか |
| クロール | クロール頻度・対象ページを指定できるか |
| 回答方式 | 生成AI・検索・FAQ提示のどれか |
| RAG | RAGの有無・検索対象 |
| 出典 | 回答時に公式ページのURLを表示できるか |
| 聞き返し | 曖昧な質問を絞り込めるか |
| LINE | LINE公式アカウントと連携できるか |
| ファイル | PDF・Excel・Wordなどを登録できるか |
| 多言語 | 対応言語数 |
| 個人情報 | マスキング・入力制御の有無 |
| ログ | 会話履歴・アクセスログの管理 |
| セキュリティ | IP制限・認証・監査機能 |
| AI学習 | 入力データをAI学習に利用するか |
| LGWAN | LGWAN環境からの利用可否 |
| 料金 | 初期費用・月額・従量課金 |
| 実績 | 自治体での導入実績 |
| 運用 | 導入後のサポート体制 |
自治体向けAIチャットボットは、単に生成AIを導入するだけではありません。
自治体のAIチャットボットは「何をAIに学習させるか」が重要
今回紹介した製品でも、
- 公式ホームページを中心に使う
- AIによる回答生成を行う
- AIが質問を聞き返して情報を絞り込む
- Web検索を利用する
- PDFやExcelなどを情報源にする
- LINEと連携する
- 庁内問い合わせにも利用する
など、製品ごとに考え方が異なります。
特に自治体では、「AIがどれだけ賢いか」だけでなく、「正しい情報をどう維持するか」が重要です。
導入前には、実際の自治体ホームページを使って、「住民がこの質問をしたら、どのページを案内するのか?」という具体的な質問をベンダーに投げて、回答結果を比較するとよいでしょう。
また、導入後の職員負担まで考えるなら、FAQを新しく大量に作る必要があるのか、既存の自治体ホームページをそのまま活用できるのかも重要な比較ポイントです。
AIチャットボットは「AIの性能」だけではなく、自治体の情報管理・ホームページ運用・住民との接点まで含めて比較することが、導入後の運用を考えるうえで重要になります。

